完全勝利ではないがまぁ勝利!

9.11に東京簡易裁判所に訴状を提出したおれの請負代金請求事件の口頭弁論が終了。結果は……
結局、25万円で和解して帰ってきました! 司法委員さんの勧めを聞き入れた形。30万円の満額ゲットとはいかなかったけど、事前交渉時の先方提示額は20万円だったので、それから見れば5万円の上乗せに成功した。ふぅ〜。

10時前に現地に着いて、総合受付で開廷表をめくってみたら、おれが入る予定の308号法廷では本日15件ちょっとの裁判が予定されていた。11時からの欄には当然、原告/高井次郎と書かれていた。しかし11時15分からはもう別の事件が予定されていた。おいおいたったの15分間かよ、と思ったけど、まあそんなもんなんだろう。
ちょっと他の裁判を傍聴してみようと思って308号法廷に入室すると、傍聴席には2人の先客がいた。それぞれ自分の事件を抱えた当事者とお見受け。穴兄弟みたいなものですなと内心で話しかけたりして。10時ちょうどになって、裁判官が「では始めましょうか」と切り出し、最初の事件の審理がスタート。しかし被告席には誰もおらず。被告が出席しておらず、答弁書も出ていないので、原告の主張通りと認めます、と裁判官が言い渡して、約2分で1件終了。こりゃもしかしたらおれの事件のスタート早まるかも、と思ったがそうでもなかった。
待っている間に審理されたのは、マンション管理組合が賃貸料を払わない居住者を訴えた事件、自動車ディーラーが客を訴えた事件、不動産会社が荷物を置いたままいなくなった女性居住者を訴えた事件など、4件だったかな。傍聴席にいた被告の関係者が見かねて発言をして司法委員に制されたり、その被告がちょっと大島優子似だったり、なんかもったいつけてしゃべり続けているんだけど結局何をいいたいのかわからなくて裁判官から「その話はまだ続きますか」とつっこまれたり、とちょこちょこおもしろどころあり。完全なる無関係者として聴いていたらさぞおもしろかろうなと思ったが、もうすぐ自分がこの中に入るのかと思うとそう冷静には聴いていられず。
審理が途切れた合間に、一人の司法委員が「この後の出版社のやつってどうですかね?」みたいなことを雑談で話し始めて、緊張感が高まった。それ、おれの事件。。「こういう(ゴーストライターという)仕事があるんですかね」「いや、ありますよ」「書いたものの現物を提出してくれれば話が早いんだけどね」…などという話が裁判官と司法委員と書記官の間で飛び交っていて、よっぼど「それ、私の事件です」と名乗り出ようかと思ったのだが、結局は微笑を浮かべながら黙っていたのだった。
そのうち、傍聴人が増えてきて、この人はもしかしたらおれの事件の証人かもしれんぞと身構えて、違ってほっとしたりしていたら、そのうち見知った顔の男性が入ってきた。前にブログを本で紹介させてもらって知り合いになったNさん! 最近は裁判傍聴を趣味にしているのかなと思ったが、小声で聞いたら、人ごととは思えなかったので応援に来てくれたのこと! うれしかった〜! 法廷画描いてよ、といったら得たりとばかりに無印のスケッチブックを取り出したNさん。さすが〜〜(下の画像は2点ともNさん画!)。

さらに、その後、今回初期段階から相談していた尊敬する先輩ライターのMさん、同じく相談していた頼れるライターのOさんが登場。Facebookで攻撃的なアドバイスを書き込んでくれていたライターのKさんも登場。Kさんにいたっては、原告や被告が使うドアから入ってくるという禁断の入室方法を採用し、当然書記官から指導されていたが、とにかく4人ものフリーランス同志がおれの応援にかけつけてくれたのだった! 感涙! この時点でなんとなくもう大丈夫だなと思うおれがいたのだった。
肝心のおれの事件の被告はどうだったのかというと、途中でちょっと退出したときに、和解交渉したときの現取締役とすれ違って「どうも」「よろしく」という挨拶をしたのだが、そこにはもう一人いた。メールで交渉した前取締役だった。この人とはこれが初対面。編集者っぽくない印象をもった。答弁書の文面で少しは予想していたが、実際に証人として連れてきたようだ。これはちょっとこじれるのかもしれないなとふと思った。被告側の二人が入室したときには傍聴席はほぼ満席。おれの隣が空いたのでとりあえず余裕を見せようと被告に「ここ空きましたよ」といってやった。しばらくは原告と被告がなかよく傍聴席の椅子に並んで座って前の審理を見守るという状況が続いた。
そのうち予定開始時間の11時をすぎたが、前の審理がけっこう長引いてしまって、では次、高井さんと呼ばれたのは11時8分くらいだったか。傍聴席から木のドアを開けて法廷にイン。よろしくお願いしますと裁判官ほかの皆さんに言ってから、向かって左手の原告席に着席した。

被告はラウンドテーブルの向かい側に座り、証人となる前取締役はもう一つあいている中央の席に着席、しようとしたところで裁判官から誰何の声が。被告が「証人です」と言ったが、裁判官は「ああ、そうですか。しかしまだ証人として認めたわけではありませんので」とスパッと切り捨て、行き場を失った前取締役は再び傍聴席へ。「おお、裁判官かっこいい!」と内心色めき立った。
威厳をその場全体に見せつけた裁判官が、それでは始めますと切り出し、今回の少額裁判についての説明を開始。一回の口頭弁論の後にすぐ判決を出しますとかなんとか制度的な話をひとしきり。ということでよろしいですね、と裁判官。はいとおれ。しかし、被告からここで予想外の発言が。なんと、少額裁判ではなく通常の裁判にしてくれと言い出したのだった。これはけっこうショックだった。通常裁判ということは今日の1回では終わらないということ。もしかしたらこいつ弁護士をたてて本格的に争うつもりなのかと思わせた。しかし、その口も乾かぬうちに「私どもは少しでも早い解決を望んでいます」とぬかしやがる。おいおい、早い解決にするなら少額裁判だろ。。。矛盾してるだろ。。と思ったけど、被告には少額裁判を通常裁判に変更する権利があることは知っていたので、おれからは何もいわず、そのまま進行する感じに。しかし、心の中には暗雲がたちこめていた。
で、審理開始。裁判官が原告(おれ)の訴状内容をおれに確認して、被告にも確認すると、被告が発言。自分は新しく会社を買い取ったばかりで原告に発注した業務の内容について詳しく知らない、ついては当時の社長をつれてきたので、証人として話させたい、との旨。ここから裁判官の活躍が始まった。あなたはこの裁判の当事者なのにどういう契約をしたのかも知らないのか、知らないならなぜ前社長に確かめもしないのか、そんな人任せでふざけた態度で神聖なる法廷に臨んでいいと思っているのか……。このときの裁判官、かっこよかった! 矢継ぎ早に責められてたじたじとなり、いや、もちろんそういうわけではありません、とつぶやく被告は、先生に厳しく叱咤されてしゅんとなる小学生のようだった。
結局、証人申請は認められず、前社長は傍聴席に座ったまま。いくつか裁判官から原告(おれ)に質問や確認があり、それに答えていったが、いま思うと、どの時点で支払をする契約だったのかという質問への答え方に不備があったように思う。
我々の仕事では、口頭契約のときに、支払のはっきりした期日を指定することは少ない。著者仕事で印税契約の場合は契約書を交わすことになり、そこに必ず支払い期日は入っているが、いわゆる発注仕事の場合は契約書など交わさないし、厳密にいつ支払と確認することは少ない。もちろん本当はすべきだが、よくいえば信頼関係、普通にいえばなあなあの関係でやってるものだ。
そして、今回の場合もはっきりいつの支払ね、と確認したわけではなかった。でも、それをはっきり認めると不利になるような気がして、ごにょごにょとあいまいな答え方しかできなかった。当然、裁判官もそれは気づいたと思う。でも、裁判官はそこを追及はしなかった。「契約時に支払期日を定めておかなかったということは、本が出なかったら支払わないという同意があったとみなすことができますね」とか言われちゃったらまずいことになっていた気がする。これは推測にすぎないが、そこを追及したらこのやせぎすな被告がかわいそうだと思ってくれたようにおれは感じた。
あと、思い出すのは、被告が「著者から自費出版費用の振込がないので払えないのだ」とかなんとか言いだし、ついカチンときて「それは版元と著者の話であって、ライターには関係ないでしょう!」と声を上げてしまったこと。自分の声が上ずりながら震えているのがわかったんだけど、そのときに裁判官が「まあまあ、とりあえず言わせてやれよ」という感じで制してきた。勘違いかもしれないが、この制止には「悪いようにはしないから落ち着けよベイビー」的なメッセージfrom裁判官を感じた。
そんな感じで話し合いは進み、被告がまた何か言い始めたんだけど、裁判官が時計を見て「もう次の事件の時間を過ぎているんですよ」と一言。そして、訴状の内容を両者が認めるのであれば、別室に移って司法委員の先生と話し合ってみてはどうでしょうかね、と切り出し、被告に対して、どうですか、認めますよね、と確認。被告は同意。ということで、同席していた司法委員の先生に連れられて別の階へ。原告と被告が居合わせるエレベーター。。。空気は重かった。なぜか傍聴席にいたOも随行してくれたのだが、これが結構たのもしかった。Oはタッパがあり、珍しくスーツを着てきていたので、一見すると有能な法律家に見えなくもない感じだったのだ。
確か訴状を提出したときのフロアにのぼって、まずは被告が司法委員とともに部屋に入室して話し合い。おれと「有能な法律家」は廊下の長椅子に座ってじっと待機。この「有能な法律家」はじつは優れた似顔絵画家でもあり、傍聴席で描いた作品を長椅子で見せてもらったら、やはり傑作だった。待機すること約10分くらいか、被告が出てきて、原告(おれ)と入れ替わり。「有能な法律家」も入ろうとしたがさすがに司法委員から「一人で」といわれて断念。
室内で話されたのは和解案。お互いに和解の道を探るために中をとってはどうかという話。つまり、被告との事前和解交渉で示された額と、おれが請求している額の中間でどうかということ。まあそうだろうなと思っていたけど、実際にそういう道筋が裁判所側から提示されると、なんとなく安心した。「あくまで初志貫徹で!」と煽るもう一人のおれも最初はいたけど温和そうな年配の司法委員さんの声を聞いているうちに中折れ状態になっていった。そのかわり、法廷で主張しようと昨晩書いたリストの内容を司法委員にぶつけた。司法委員の先生は柔和な微笑で包み込むように聞いてくれて、おれの中でなにか黒いものが溶けて消失した。
で、あとはもう一度その部屋に被告が入って司法委員とトーク。原告はもう一度廊下で「法律家」とトーク。廊下で書類を書いている女性がいて、その女性がなんとなく美人っぽい感じで、緊張している女性は綺麗に見えるよね、などというボーイズトークをしているうちに、今度はわりと早めに再びおれも呼ばれて「法律家」以外の4人でトーク。被告が25万円を一括で払うことになりました、それで和解ということで、と司法委員。委員には分割の可能性もありますといわれていたので、ちょっと驚いたけど、さすがに被告ももういいやと思ったのだろうな。司法委員が被告との密室トークで何を話したのかはわからないが、いっぱいいっぱいになっているやせぎす貧乏中年ライターをいじめなさんな、と諭してくれたに違いない。
その後、廊下の「法律家」を含めた一行でエレベーターに乗って法廷に戻り、原告と被告が席に座り、司法委員のフィードバックを受けた裁判官が、それでは解決金25万円を払って和解ということでよろしいですね、ハイ(原告)、ハイ(被告)という返事で一件落着。調書はいりますかと聞かれたときに、被告側の前取締役が「べつにいらないす」と投げやりな感じで答えたのが印象的。その後現取締役が「いや、送ってください」と言い直していた。ありがとうございましたと裁判官にお礼をいって退出。エレベーターはまた原告と被告がいっしょに乗り込み、地下の食堂に向う原告側が1階で降りる被告側を見送る形に。前取締役は無言で振り返ることもなく出て行った。現取締役は振り返って会釈して帰って行った。不良債務を知っていながら残して去った前者とそれを残されただけの後者。買収前の債権債務については前取締役にすべて所属するという契約をしているそうで、解決金を払うのは前取締役らしいから、そういう経緯も込みで考えると納得の別れ際だった。
裁判を終え、食堂で待機してくれていた支援者の皆さんと合流して、新橋まで歩いて立ち飲み屋で乾杯。疲れた。。。
いま振り返ると、被告が通常裁判を望むと言ったのは結局なんだったんだろうか。法廷戦略? しかし、その後で和解を受け入れるつもりがあるんだったらそんなこと言っても無駄だっと思うのだが。あの証人をわざわざ呼んでも意味はないのは最初から想像ができたとも思うし。おれにはどうもよくわからない。
和解という決着の場合、支払われるのは「解決金」だけで、訴訟費用については原告が負担したままで終わる。従って、25万円をゲットした(する)ものの、訴訟手続きにかかった6910円と登記簿謄本発行手数料700円はおれの損ということに。悔しさはもちろんあるが、悔いはない!