濃愛、「いけちゃんとぼく」(映画)

死者が化けて出てもおかしくないほど濃厚な、
大人にしか見えない非子供向けラブストーリー
 フジテレビ系「ザ・ベストハウス123」で「絶対泣ける本BEST3」の第一位に選ばれた西原理恵子の絵本を、クレラップのCMを撮った監督が映画化。いけちゃんとは、主人公の小学生・よしおにしか見えない、オバケのような謎の生き物。いつも近くにいて、励ましたり叱ったりして見守ってくれる存在だ。
 子供にしか見えない怪物との交流といえば「となりのトトロ」。純真な子供時代には見えても大人になると見えなくなるというトトロ設定を本作も踏襲しており、いじめっ子にやられっぱなしの少年がいつしか立派な男になっていく様子を描く成長譚的なムードは全体に漂う。が、単なる少年成長譚として観れば、特筆すべき作品ではない。むしろ、よしおの進化ぶりが唐突で、少年が大人の階段を昇る機微は十分には描けていないと思う。しかし、成長譚の見かけはあくまでダミー。本作はバリバリのラブストーリーである。それも、観る者が赤面するほど濃厚な…。
 分水嶺は、冒頭と最後に唐突に登場する老女(吉行和子)&墓。予告編の言葉でいえば、テーマは「大好きな人の子供の頃を知っていますか?」。これは、成長譚の形を借りて、先に逝った夫に捧げた、なりふりかまわぬ愛惜歌。捧げられた死者が化けて出てきてもおかしくないほどの。いけちゃんは子供にしか見えないが、本作の本当の価値は大人ににしか見えないのだ。(高)

●発売/バンダイビジュアル●12月4日発売●107分●監督/大岡俊彦●原作/西原理恵子●出演/深澤嵐、蒼井優ともさかりえ萩原聖人モト冬樹蓮佛美沙子柄本時生吉行和子岡村隆史
私的オススメ度
★★★★
蒼井優のいけちゃん声が不適と思ったが愛話と知ったら納得。
▲原作で泣いた人にはいま一つ不満なようですが…。

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