健さん化が進むアベちゃんの『青い鳥』

どもり先生が中学校のいじめ問題を通して本気で話し本気で聴くことの大切さを訴える

青い鳥 [DVD]

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 昔、少し吃音癖のある大先輩のライター氏が、自分はアポ取りが得意だと話してくれたことがある。どもりながら喋ると、非常に一所懸命伝えようとしているように思われるのだという。だからアポ取りのときはどもりを強めに出す、と付け加えたのはご愛嬌だが、本作を見て思い出したのはこの先輩のことだ。確かに彼の喋りは、自分がちゃんと聞かなければ、という気にさせた。
 だから、吃音の臨時教師・村内(阿部)が、いじめで生徒が自殺未遂事件を起こしたクラスにやってきて、徐々に生徒に影響を及ぼしていくストーリーには、非常に説得力を感じた。いじめた側に悪気がなく、いじってやると相手が喜ぶ、と認識していたというのも、お笑い番組の隆盛が続く現代事情をリアルに表しているように思う。
「強くならなくたっていい。人間は弱いものなんだ。だからがんばれるんだ」「忘れるなんて卑怯だな」「誰かを嫌いになるのもいじめですか」と、心に響く台詞が続出の本作だが、本作のメッセージはこれに尽きると思う。「本気の言葉は本気で聞かなきゃだめだ」。
 村内先生のように、どもらなければ言葉をしゃべれない人もいる。自殺未遂の生徒のように、冗談めかしてしか本気の言葉を発せない人もいる。その本気さに気づけるのは、かっこつけたり背伸びしたり恥ずかしがったりめんどくさがったりせずに、本気で話を聞こうとする人だけなのだ。
 それはそれとして、映画としてはもっと華のある女優を一人でも出すべきだったと思う。これは別に冗談めかして言っているわけではない。恐縮ながら、本気で言っているのだ。(高)

私的オススメ度
★★★★
どもりといえば山下清だが「裸の大将」っぽさはまるでない

阿部寛
白い春」とか「歩いても歩いても」とか、無口で不器用な男の役が十八番になってきた感じのアベちゃん。もしかしてそれは高倉健化が進んでいるということかも。今冬スタート予定のNHKスペシャル大河「坂の上の雲」では主人公の一人、秋山好古を演じる。

▲生徒側のメインである本郷奏多は、主演作に「HINOKIO」、「テニスの王子様」、「GOTH」がある。色白だ。

▲題名の「青い鳥」は、生徒自殺未遂事件のフォローとして生活指導教官が中学校内に設置した青い投書箱の名前から。

●発売/バンダイビジュアル●105分●監督/中西健二●脚本/飯田健三郎長谷川康夫●原作/重松清●出演/阿部寛本郷奏多伊藤歩、太賀、荒井萌、篠原愛美、高田里穂