映画「遭難フリーター」

●監督・出演/岩淵弘樹●プロデューサー/土屋豊●アドバイザー/雨宮処凛●挿入曲/豊田道倫●エンディング曲/曽我部恵一●07年・日/67分●バイオタイド配給●3月28日より渋谷ユーロスペースにてロードショー●公式サイト

派遣労働の当事者が日常を綴るドキュメントは「ビデオカメラ」の有無を鑑賞者に問いかける

 派遣会社からキヤノンの工場に派遣されて単調作業を続ける23歳フリーターが、自らの日常を日記のように綴るドキュメンタリー。何かを求めて仙台から上京した主人公は、奨学金を返すために不安定な派遣労働を始め、抜け出せなくて悶々としている。フリーターのデモに参加し、TVの取材を受けるが、それで何かが変わるわけでもない。
 こんなとき、人は新しい仕事を探すだろう。23歳ならまだ仕事は選べるだろう。が、彼は違った。工場の労働を続けながら生活をビデオで記録したのだ。大学で映像コースにいた影響だろうがとにかく彼の場合はビデオだった。
 大志を抱いて上京したのにいつしか生活のために生きるようになっていた、という人は多いだろう(筆者含む)。彼にとってのビデオが己にはあるのか否か。自問自答を余儀なくさせる一本だ。
 映画のラスト、日雇い勤務を終えて終電がなくなった彼は、大雨の中、高円寺からあてもなく南に歩き出す。標識を見かけて、平和島まで行こうと決める。海まで着いても何もないが、彼はここまで歩いてよかったと呟く。人生はそういうものであってほしい。動き出した電車に乗って帰る彼の後ろに、雨上がりの夜明けが見えている。
 
▲冷静に見れば主人公の生活はそれほど貧乏でない。 ▲青春の代名詞のオナニーが描かれないのは残念。