2013年賀状と大吉の性神籤


今年の年賀状は、裁判生録をだらだらとテキストで流し込んで、応援にきてくれたフリー同志が描いてくれた法廷画2点を添えたこれ。いま思うと新年からこんな小さすぎる文字だらけのハガキ送られても受け取った人は困りものだったかもしれないな……という反省心がなきにしもあらずなので、せめてものお口直しということで、メガベッピンの連載で作ってもらったおみくじ画像を贈呈。よいお年を〜。あと、賀状に入れた文面をしつこくコピペしときますよ。

裁判官■それでは、少額訴訟の手続きについて説明いたします。少額訴訟は原則として今日1回の裁判だけで終わる手続きです。判決が出ますと、通常の裁判では地方裁判所に控訴の手続きができますが、少額訴訟ではできません。ただしこちらの裁判所に異議の申し立てをすることはできます。異議の申立がありますと、もう一度審理を行い、異議の判決をします。その判決に不服申立をすることはできません。被告側はこの冒頭の段階で、控訴ができるような通常訴訟手続きに切り替えてほしいという申し出をすることができます。申し出があれば切り替えますが、なければ少額訴訟のまま手続きを進めます。よろしいでしょうか。
被告◆あの、今回証人を呼んできたんですけれども。証人は当時、原告とやりとりをしていた、当時を知っている元代表でありますので。私を含め、現代表も、W出版を引き継いだ形になっており、いま会社の運営を行なっているんですけれども、当時の状況を知る人間がおりませんので、あの、できるだけすみやかにこの問題を解決したいんですけれども、なにしろ当時の事情を知る人間がいないもので、一番よく知っているのは今日証人に呼んでいるFということもありまして、話の流れがどうなるのかわからないので、通常訴訟に切り替えた方が、いろいろとあの……。
裁判官■わかりました。では通常訴訟ということで進めていきます。まず、原告さんは訴状のとおり。被告さんは答弁書のとおり、と。答弁書には具体的なことは書かれていないんですが、Fさんからお話をうかがってですね、現時点で原告さんの請求についてはどうお考えなんですか。
被告◆えー、ま、私どもとしては、当初会社を引き継ぐにあたって、こうした出版のところで、多少の問題があるというお話は聞いておりまして、ま、そういったことに関しては、Fさんのほうで引き続き対処のほうをお願いしますということでやっておりましたので、今回こういった形で訴状を受け取って、正直いって驚いた次第です。
裁判官■いや、驚いたのはまあいいんですけど、私が聞きたいのはね、請求原因の内容についてね、Fさんからいろいろ話を聞かれて、現時点ではどうなんでしょうかと。
被告◆そういったものも含めてですね、私どもとしてはとにかく早急に解決をしたいなと。
裁判官■いや、そうじゃなくって。事実関係をいってるんです、まず。こういう、Yさんの自叙伝の取材とか原稿作成をね、依頼している事実はあるんでしょ。
被告◆はい。
裁判官■それは聞いているでしょ。依頼して、そのときに報酬をどの段階でお支払いするという約束をしたのか。
被告◆そのあたりのこともすべてわからないんで。
裁判官■あの、Fさんから聞いてるんじゃないの?
被告◆一応聞いておりますけれども、いつの段階でというのは特段聞いておりませんので。
裁判官■Fさんに聞いてもわからないということ?
被告◆聞いてはおりません、そこのところは。
裁判官■なんで聞かないの? これ、裁判が起きて、いまあなたが当事者なんですよ。どういう契約をしたんですかって普通聞くもんでしょ。
被告◆そうですね。
裁判官■なんで聞かないの?
被告◆申し訳ないです。
裁判官■今日、Fさんから話してもらうから自分は聞かなくてもいいっていう、そんなおつもりでいらっしゃるの?
被告◆いや、そういう責任逃れみたいなことは考えておりませんけれども。
裁判官■なんで聞かないのかちょっと理解ができないんだ。結局あなたがわかるのは、いまトラブルが起こっていること、Yさんの関係でこちらにお願いして、結局出版まで至ってないので支払の余裕がないと。それぐらいですか、わかるのは。
被告◆そうですね。
裁判官■あなたとしては、当初契約したとき、こういう原稿を書いたりする場合に、原稿を作っても著者になる人が気に入らないってことで最終的に出版まで至らないとか、いろいろ考えられますけど、そういったものを含めて、どういう約束をされたんですか?
高井●取材をして、原稿を書いて、それを納品して、でギャラをもらうというお話で仕事をしました。
裁判官■原稿を書いて、Yさんに見てもらうわけですよね。
高井●それは編集者の仕事でした。
裁判官■ま、あなたがしなくても、Yさんに見てもらって、この辺は直してほしいとかいうことがあれば、それに従ってあなたが訂正するわけでしょ。
高井●もちろん。そういう話があれば訂正しますが、編集者のOさんからそういった指示はありませんでした。原稿を納品した後、私はライターですから指示を受けて書き直す事は当然やります。でも、Oさんはそういったことをせずに、会社を辞めてしまったんです。原稿にOKを出した編集者がいなくなって、引き継ぐ人も誰もいなかった。
裁判官■Oさんが辞める前の段階で、あなたの書かれた原稿はこれでOKですよっていうことは言ったんですか?
高井●はい。もちろん。
裁判官■OさんがYさんとどういうやりとりをしているかというのは、あなたはわからない。ただし一度も訂正とかそういう指示はなかったと。
高井●厳密にいえば、取材をしたのが1月から3月で、最初の原稿を4月1日にメール添付で納品しました。その後、電話でやりとりをして、じゃあこういった追加原稿を入れましょうという相談をした後で、5月8日と5月30日に、編集者の指示に従って、追加原稿を渡しています。この5月30日の時点で、OさんからはOKが出ているわけです。
裁判官■そのときに、ここをこう修正お願いしますというような話は出てないんですか?
高井●はい。そうです。その後は自分でやるからとおっしゃって、自分で手を入れて整理して、それを著者のYさんに確認をとったんじゃないでしょうか。
裁判官■あなたとしては、それで自分の仕事は終わっていると。で、Oさんの後任の方から修正依頼があれば応じるつもりでいるけれども、それもなかったと。
高井●そういうつもりでいましたけれども、W出版からは何の連絡もありませんでした。
裁判官■支払を請求しても払ってくれないのは、本が出版されてないからというのが理由なんですね。
高井●そうこちらはおっしゃってますね。ただ、本が出なかったらギャラは払わないなんて契約は通常ありません。
裁判官■そもそも契約するときに、その辺の細かい話ってのはしてるんですか。どういう方法でとか。
高井●口頭ですね。
裁判官■どういう内容ですか。
高井●取材をして原稿を書いておしまいだよ、と。証拠のメールの一番最初のものにあるような内容です。
裁判官■本の出版が前提という話は出てないわけですね。
高井●はい。それはないです。
裁判官■この会社と前にも同様の契約をしたことは?
高井●一度仕事をさせてもらったことはあります。
裁判官■そのときはどうだったんですか。
高井●普通にギャラを払ってもらえました。
裁判官■なるほど。あなたとしては、今回も同じ流れで原稿を上げて修正依頼もないから、もらえるんじゃないかと。
高井●はい。……その辺はW出版さんも認めていらっしゃいますよね? 私に仕事を発注して納品を受けたのは。
被告◆あの、このメールと、パソコンに原稿が残ってますので、おそらく今回の訴状と、パソコンに残っているワード原稿なんですけれども、それが一致するものだろうなとは思っています。ただ、どの段階の原稿なのかは正直わからない。完成した原稿データとして残っているのか、途中のやりとりとして残っているのかは、判断がつかない。
裁判官■それは、原稿料を払わない理由もあなたはわからないわけですか。自分の会社が払っていないというのは。
被告◆本来であれば、初校をYさんに提出した段階で、契約金の半金を払うという契約だったんですけれども、Yさんのほうでそれを認めないと。これは原稿としては認めないんだ、という話になって、入金がない。で、入金がないということは、原稿として完成しているものではないということで、支払う訳にはいかない。けれども…
高井●それは著者と出版社の間の話ですよね!(大声で)
被告◆まままま。というようなお話で、であったとしても、こういう依頼をしているのは事実だろうから、いくらかお支払いするというやりとりをしていることまでは聞いて…
裁判官■その、Yさんが気に入らないということであればね、どこが気に入らないのかを具体的に聞いて、じゃあ修正しましょうという話は通じないんですか?
被告◆あの、その辺の経緯に詳しいのはFですので…
裁判官■それはあなたわからないのね。
被告◆はい、なので証人として入れていただいて、その辺の詳しい経緯を話していただきたいと思うんですけども。
裁判官■……11時15分から違う事件が入ってるんです。今日Fさんから話を聞ける時間があるかどうか、難しいところがあるので、一応別室で事情を聞いて……。別室でFさんもまじえて経緯を司法委員に話してください。和解の点も含めて話してもらって、和解は難しいってことであれば、Fさんを証人に認めてお聞きしますが、ただ、今日するか違う日にするか、まだはっきりしませんけどね。じゃ、お願いします。(その後、別室で司法委員から示された解決金額の提示を両者が受け入れ,和解が成立)