被告と和解交渉するも決裂

昼間、原告であるおれが被告の本拠地まで出向いてきた。会社に行くことになっていたが、隣のルノアールに入って約束の5分前に電話。一人で先方の本拠地内に入るのは怖かったので、慎重を期してパブリックな環境である喫茶店に来てもらうことにしたのだ。
考えすぎと思われるだろうが、それくらいこっちは不慣れなことに無理して一人寂しくトライしているということなのだ。それだけでも本来なら慰謝料を乗せたいところなのだ。本当なら武器も携帯しておきたかったが、携帯できそうな武器など持ってないので、かわりに息子がランドセルにつけていた「ペンギンの問題」の防犯ブザーを持参した。どうだよ、この小市民感がわかるか!
と、それくらいの緊張と屈託をもって席に座り、深呼吸して電話したのだが、やりとりをしている先方の担当取締役は不在とのこと。隣のルノアールで待っている旨を伝言してもらい、そのまま待ったが、5分たち、10分たっても誰も来ず連絡もない。12分待ったところでもう一度電話したが、長らく待たされた後、やはり不在といわれた。もう帰ろうと思ったら、眼鏡をかけた中年男性が入店してきて話しかけてきた。その取締役だった。
おそらくはおれより少し年下だろうか。若干、関塚五輪監督の質感がある顔立ち。ICレコーダーを机にセットしたら、ああ録音してくれたほうがいいですね的な発言あり。こちらとしては30万円の振込が確認できれば訴訟を取り下げてもいいがそれ以外は話してもお互いに時間の無駄、ということを最初に告げたが、まあそういわず事情を聞かせてよという展開。事情は訴状につけた準備書面(今回の経緯を書いた)にあるとおりだと述べて後は無言。でいるつもりだったが、さすがに人間同士なので聞かれたことは少しずつ答える感じに。
まあ、電話で話したときと同じように、この人自体は別に悪い人ではないと感じることはできたが、別におれは世間話をしにわざわざ出向いているわけではないので、「で、お金を払うつもりはあるんですか、ないんですか」と質問。相手は「お金は払いますよ」と返答。なんだあるのかよ、と思ったが、ただ、30万円といわれてはい30万円ですと払うわけにはいかないとのこと。じゃあやっぱりこのまま話してても意味ないですね、と返したが、なんだかんだでトークはコンティニュー。仕事には正味何日間かかったのかとか、取材はどんな感じだったのかとか、取材対象はどんな人だったのかとか、そういう話をして、らちがあかない感じがむんむん漂ってきたので、でどうするんですかと訊ねたら、ためてためて和解額を提示してきたが、その額は残念ながら30万円ではなかったので、すぐに断った。それで交渉は終了。
コーヒー代を置いていくつもりで小銭を用意していたが、伝票をもたれたのでつい「いいですかね」といって払わせてしまったのはいま思えば失敗だった。でもわざわざ話に応じたんだからそれくらいよしとしてくれよな。。
というわけで、この請負代金未払事件は、予定どおり10月10日に口頭弁論の期日を迎えることに決定。店を出た後はどっと疲れが押し寄せてきた。家に帰って1時間睡眠せざるをえなかった。今日のところは怖い人が出てこなかったからよしとしたい。
会わないほうが潔いなと思ったり、いやでもおれが会いに行ったほうが最後まで原告は訴訟回避の道を探っていたという事実が残るはずだなと思い直したり、会う場所を喫茶店に変更したり、武器の調達を考えたり、おれがあれこれあれやこれやああだこうだ本気で悩んで訴訟に臨んでいるということを、先方はわかっていない。墨田庁舎に、霞ヶ関庁舎に、法務局に、と東奔西走し、本来ならかけなくてもいい時間と手間をかけているということにはまったく思いが及んでいない。おそらくは訴状と準備書面を本気で検討してはいない。今日会って妥当な額を提示すれば訴訟にはならないだろうと思っていた節がある。それも非常に悔しいことの一つだ。
今日向こうが提示した額より低い額が判決で出されたらおれは笑い者というか笑われ者で、もちろんぜひそれは避けたいのだが、万一そうなってもそれはそれだとも思っている。金だけじゃない、という気にもなってきている。泣き寝入りせずに訴えを起こしたことに意味があるのだ。そう確信する自由をおれは完全に保持している。