息子の元担任の先生が書いた絵本!

息子が4年生のとき、新しい男の先生が担任になった。会社勤めをしてから教員免許をとり、36歳で転職したという先生だった。授業参観のとき、スーツに新しい白い運動靴をはいていて、なんとなく微笑ましいなと思ったのを覚えている。まじめさと熱意が感じられる先生だった。
でも、その先生は夏休みに交通事故にあってしまった。自転車に乗っていてトラックに巻き込まれたらしい。一命はとりとめたが、胸椎損傷で下半身が麻痺してしまい、車椅子の生活を余儀なくされ、先生は学校を去った。
息子はショックを受けていたようだったが、代わりの先生がきて、やがて日常に戻っていった。そのうち息子たちは5年生になり、6年生になった。話を聞いた当初はたまきんがじんじんするような残念感に襲われたおれも、不運な先生のことはすっかり忘れていた。
去年の秋のある日、家にその先生から突然電話がかかってきた。いま絵本を作っていて、その絵本には元教え子たちと撮った写真も載せたいと思っていて、絵本ができたら学校に行って息子たちに贈りたいんです、とのことだった。子供らを驚かせたいから絵本のことはだまっててください、とも言っていた。
そして、昨日、先生は昔教鞭をとっていた学校にやってきた。2年前の教え子たちに一冊の絵本をくれた。交通事故にあって車椅子で生活している少年が主人公。本当にこの本を作りたかったんだという思いがあふれる本だった。カバーの折り返しには、いまよりだいぶ幼い息子たちも載っている。

あきらとジョニーの「空とぶ車いす」

あきらとジョニーの「空とぶ車いす」

元教え子たちにこれ以上ない強いメッセージを伝えることに成功した先生は、いま障害者水泳の選手としてもがんばっているらしい。かっこいい。「ぼくの先生はヒーロー 嵐を巻き起こす どんなときだって くじけない男 ヒーローそうさ!」って、熱中時代の歌を思い出させる。レモンのにおいさえするのかもしれない。
翻って、おれはいま、毎週一度のフットサルと、きたる東京マラソンを生き甲斐にしている感じ。もし足が動かなくなったら……怖くてなかなか想像できないけど、きっといじけ本性をフル発揮してひねもす暗澹たる生活を送るだろう。そして息子からは「先生はあんなに立派だったのに……」と見放されるだろう。