過去俺日記.1

  • 1986年3月29日

頭をかいて爪に残った匂いをかんだ。「爪」は辞書をひいて書いた。ロバ製菓の「ぽんぽこ」のおしながきはかわいかった。さっき便所で考えたことを思い出そうとした。「思い出そうとした」と書いているときにはもう思い出そうとしてはいない。


最近精力が減ったのではないか。うつぶせになって右腕を敷布団の下に入れて腰を動かし、「園子ちゃん」とか「あやのちゃん」とか思ってもあまり興奮しない。興奮していないのに自分が興奮しているかのように演技しているようだ。僕はけっこう演技が多い。「園子ちゃん」とか口に出していうと背すじがぶるっとくる。これは大体いつもそうだ。僕はえんこちゃんが本当に好きなのかどうか、わからない。好きだと思っている自分を考えてそれに酔っているのか。そもそも本当に好きとはどういうのか。えのもとのときのようなものか。あのときだって同じだったか。ベッドで名前を呼んでいたのは同じだ。しかし、俺が「キャンパスで会おう」といったのがうれしかったとかいっておきながら落ちてやんの。みんな俺のことなんて本当には考えていないのだ。ライブのときだってただ場あわせのため、建前だけのためにみんな俺に声をかける。あれが俺でなきゃだめだということは全然ないのだ。もっとも俺の方だってそうだけど。みんな女が声をかけてくるのを待っているんだ、田中裕子とかの。勿論俺も。安川め、田中裕子としゃべっていたな。俺はああいうのは目につくんだ。45になったら自殺するとは何とも女が耳を傾けそうな話だよ。いや僕は安川の悪口をいってるんじゃない。彼は本当にそう考えているんだから。浜口も落ちた。みんな予備校にいく。何か予備校にいく方が楽しそうだ。みんな一緒だ。みんな一緒だから楽しそうだと俺は思っているのか。俺はみんなと一緒にいたら楽しいのか。みんなどうせまたああいう応対をするだけなのに。俺は孤独になって勉強したのさ。おれがやってればみんなやるだろうと思った。なんていいふらしても誰も感動しなかった。俺が浅はかだったかな。それにもうちょっと女が寄ってくると思ってた。あてがはずれたな。もうツキがないのかな。「あたし、次郎君が一生けんめい勉強してたからあたしもやったの」とかいって少年の心を慰めてくれる女がいると思ってた。そうしたら俺は熱い涙をそいつのひざにおとしただろうに。ふん俺は涙をおとしたら女がよってくると思ってるのか、それは間違いだ。えんこちゃんも遠くからみてただけだ。また俺は期待してたのだ。えんこちゃんが寄ってきて頭をなでて冷たい指で涙をぬぐいあの太ももにねかしてくれることを。考えるだけでつばがたまる。えんこちゃんにそんな風にされたら、俺はもう死んでもいい。なんていえはしないが、とにかくうれしいだろうな。えんこちゃんとキス、あのくちびるを何人の男が夢みただろう。ページをめくると白けた。と思ったのはさっきの気持ち。俺はまだえのもとのあの顔しか見たことがない。あの顔といってもあのときの顔じゃないのが残念だ。残念だ、ということは俺は彼女とやりたかったのかな。やっぱりやりたかったな。しこったこともあったし。最近想像のみでオナニー手淫しなくなった。以前ならえんこちゃんとあやのちゃんのことを考えればバリバリだったはずだ。一度学校で授業中にオナニーしたかった。授業中勃起するのが一番興奮した。机に向かって辞書で「ぼっき」をさがすのもなかなかオツだ。いや全然オツじゃないな。バスの中であやのちゃんと密着したのを思い出す。彼女のアソコのあたりと俺の陰部がくっついた。いい気持ちだ。あのかわいくていやらしい顔が目の前にあるのだ。あのくちびるだ。赤い舌をみせてほしい。男をしゃぶるように動かしてみてほしい。あやのちゃん、なんていやらしい。俺のアレがピクッと動いたのがわかったろうか。必ずわかっているだろう。あやのちゃんは男をさげすんだようでいてやさしい目をして向こうにいってしまった。いいなあアレ。あのときあの興奮にまかせて接吻し、陰部をおしつけ、抱きしめて腰のあたりをまさぐっていたらどんなによかっただろう。俺は何度も後悔した。また、期待した。彼女がうるんだ目をしてスカートを脱いで俺の手を導き、しかも俺のチャックをおろしてもみしごいてくれることを。その姿を周りの奴らはみているのだ。何という快感。これが人生の目的、生きがい、俺が求めているものかもしれないのだよ。こうなると俺の理想の女はあやのちゃんということになる。確かにそうだ。あれほどの快感をあのとき俺に味わわせることができたのは彼女の他は考えつかないといえる。えんこちゃんでも無理だったろう。なんて、あのときそんなに興奮したのかと問われるとそう自信を持てない。今こう書いてきて誇張したのかもしれない。さっき鉛筆を走らせていたときはいい気持ちだった。他のことは考えていなかったな。そういえば今日の夢でブスでデブの女に犯されそうになった。しかし、ブスにせまられたら俺はどうするだろう。やるかな。いやこんなことを考えるのはバカげている。俺にせまってくる女などいようはずがない。せまられてみたい。美しい人に。 きのうは空しかった。テレビでしこるネタをさがして待っていた−−パンツをぬぎ、ティッシュをたまきんの下に一枚ひいてもう一枚手もとにスタンバっておいた。そして勃起までさせたのに。すぐ水着シーンはおわり。無理に勃起の勢いを惰性化して果てるのはイヤだ。俺はもっと人間的にやりたい。なんて何が人間的なのか。オナニーはそもそも人間的といえるのに。勃起というのは自分でするものなのか自分がさせるものなのか。最近俺はさせている方ではないか。不自然ではないか。俺はまだ18才だのに。 とにかく今日もテレビでネタをさがすんだろう。ティッシュを一枚うらだまの下にひいて。