ワイルドさのかけらもない父子

日曜日、息子が大勢の友だちと連れ立って光が丘まで自転車ツアーに行くという行事があった。それぞれが母親に弁当を作ってくれと前もってお願いしてあったようで、まあなんというか子供だけでプチ遠足に行く感じ。問いつめるまで自分からは言わなかったが、メンバーには女子も入っていて、なんだ、こいつら色気づきやがってんだなと嫉妬含みで眺めていた。どうせマイ息子は末席に入れてもらっているだけだろうけど、そういう場に参加してるだけ前より進歩してるのかな、ぐらいに思っていた。当日、彼はなんとなく浮き足だった感じで家を出発して待ち合わせ場所に向かった。おめでたいことだわいと思って送り出した。そのまま資料本を読んでたらそれがおもしろくて息子のことなんか忘れていたんだけど、しばらくして家のドアがガチャッと開いて、そこには息子が立っていて、目には涙がいっぱい。また前みたいにうんちをもらして帰ってきたのかと反射的に思ったら、「みんなと、うっ、うっ、はぐれちゃった……」と言って嗚咽。待ち合わせ場所から揃って出発したまではよかったが、いつものように孤独に最後尾を走っていた彼は、赤信号でひっかかり、取り残されてしまい、一行を見失って家まで帰ってきたのだった。意味わからんわ、だってその道っていままで何度も通ったことあるはずだし、よしんばそこではぐれたとしたって、行き先はわかってるんだから、一人で追っかければいいじゃん、なんでめそめそ帰ってきてんの、だっせー、と思ったけど、それを言ってもっと泣かせてやろうとしたら、妻が先に「信号で取り残されたんだったら、そこで待ってと大声で叫べばいいでしょ!バカじゃないの!」とびしっと言ったので、「そうだよ、そこで恥ずかしがってっからこうなっちゃうんだよ」と話を合わせる感じになった。どっちにしろ涙の増幅にはつながった。でも、そこでふと思い出した。出発前、妻が、クルマに気をつけるんだよ、信号を守るんだよ、と息子にいつものように注意を繰り返していたことを。その母のいいつけを守って、みんなが赤信号でも勢いでさーっとわたって走っていっちゃったのを見ながらステイを選んだ従順な息子の姿がリアルに脳内で再生された。もしかしたら、「うわっ、あいつ信号守ってるよ」「バカじゃね?」「ほんと慎重っていうか愚鈍っていうか」「ウフフッ」……などというような会話が、集団走行でテンションが高くなった少年少女たちのなかではあったかもしれないなとも思った。それを道越しに聞いて、やっぱこのままわたっちゃおうかな、でもママにいわれたことだし……と逡巡しているうちに、一行が見えなくなってしまってたまきんがじんじんしてパニックに陥ってしまった息子の姿が浮かんで、ちょっと不憫になったので、「信号を守れってうるさく言ったからじゃない?」って言ったけど、まあ別に影響はなかった。それで、どうしても行きたいけど行き方がわからないというので、しょうがないからおれが自転車で光が丘までついていって、光が丘体育館の裏で置いてきた。一行をいっしょに探すことをしなかったのはせめてもの男親心だったんだけど、それが通じたかどうかはわからない。遠くで隠れてみていたら、しばらくして聞き覚えのある声がして、合流できたことがわかったので、戻った。帰路の自転車上で思ったのは、息子の育て方を間違ったのではないかということだ。小学6年生男子としてはまったくもって情けないとしかいいようがない。同級生たちは男らしくとっくみあいのケンカをしているくらいだというのに…。ま、おれもケンカなんてしたことないし、道のわかっていないことにかけては右に出る者がいないレベルなので、息子のことをいえた立場じゃないんだけど、それでもやっぱ息子はひ弱すぎる。たくましさがなさすぎる。なんというか、人前でうんこするくらいのワイルドさはないといけない。とりあえず、おれは息子にとってもっともっと厭味で意地悪な存在になることを誓う。