蹴球小河ロマン「さぽみ、ドイツへの道」.1

●第一章 啓示
 スタジアムで出会ったヘンなガイジン・ピーターとなりゆきで約束をしたものの、さぽみはなにをどうしたらいいものやらさっぱりわかりません。英語の教科書をチラシの裏に丸写ししたり、動物の英語スペルが書いてある「たべっ子どうぶつ」を何ケースも食べたり、街頭で配っている英会話学校ティッシュをゲットしたり と、持ち前の天真爛漫さをフル稼働させて独特の努力をしてみたけれど、もちろん効果はありません。
「ま、英語は学校でやればいいや。とりあえずサッカーの勉強をしよっと」
 さぽみは日本サッカー協会自慢の施設「サッカーミュージアム」に出かけました。前に日田くんが招待券をくれたのを思い出したのです。そういえば、熱心に誘われたけど、そのときは「小鳥のピッチーの世話があるから」などと言って冷たく断ったんだっけ…。
 日曜日なのになぜか館内はガラガラで、まるでさぽみの貸し切り状態です。昔のボールやユニフォームといった貴重な展示物を心ゆくまで見物して感激にむせびないたさぽみは、最後にお目当ての大型映像シアター「ヴァーチャル・スタジアム」で日本代表を応援する気持ちを新たにしていました。
「ううう、ぜったいアタシの力で日本代表をW杯で優勝させてやるんだから!」
 と、そのとき。ガガガガガ。さぽみの頭の上の方でヘンな音がしました。なんと、天井から人影が降りてくるではありませんか。古代ギリシャの哲学者のような白い布をまとい、手にはステッキ、口元には立派なひげをたくわえた、山中で隠遁生活をおくるおじいさんのようなその姿は…
「か、神様ね!? あなたはサッカーの神様なのね!」
「そうじゃ。さぽみ。そなたは英語の力をつけたいのじゃろ。ならば悪いことはいわん、TOEICじゃ」
ティー、オー、イー……トエイッチ、ってな〜に?」
「トエイッチじゃない。トイックだぞえ。英語によるコミュニケーション能力を幅広く評価する世界基準のテストなんじゃ。550点で中級レベル、700点もとれればもう上級じゃな。そのへんまでいければ、日常会話ぐらいは問題ないレベルといえるじゃろう」
「へぇ〜。じゃ、700点とれたらイングランド人のピーターに英語で日本代表のことを説明してあげられるかしら?」
「うむうむ(うなずきながら)、西洋人をぎゃふんと言わせてやることももちろん可能じゃ。がんばるんじゃぞ、さぽみ。辛いことがあったらワシを呼ぶのじゃ。…さらばじゃ!」

 神様(?)はそういうと、天上にゆっくりと戻っていきました。気のせいか、神様の体には太いロープが結びつけられていたような…。黒子の格好をした人 たちが息も絶え絶えにロープを引っ張っていたような…。でも、奇跡の感動体験にただでさえ赤い頬をさらに赤らめて大興奮しているさぽみはそんなことには全然気がつきません。
「ううう、サッカーの神様がありがたい啓示を授けてくださったんだわ…! よーし、英語がんばっちゃうぞ! アタシががんばらないでどうするの! や、やらいでか!」
<つづく>