俺過去日記.11 18歳童貞編

・1986年4月22日
今日、部室にいって小西さんに退部の旨を伝えた。おあつらえむきに部室には小西さん一人でこれはイケると思った。ぼくが伝えると、小西さんは、試合のこととかにふれたあと、文書に書いてもってこいといった。ぼくはがっかりした。本人がやめたいといってるんだから、その場ですっぱりやめさせてほしかった。「なんだきさま、それでも北大生か」とどなったかと思うと鉄拳がとんできた、とか、「ふん、これで部室が少しひろくなるぜ」と嫌味をいってくれたりしたらもっともっとさっぱりとやめられたのだが。テニス部はへんなところで体育会である。明後日にまたいかねばならない。先輩たちよりも坂田等にうしろめたい。ケン・ウォンも有田も白い目でみるだろうか。しかしぼくはあまり心配していないようである。 今日、久々におもしろい講義があった。神谷の日本文学だ。興味深かった。ああいう見方をすべきなのかもしれない。ぼくは本をよんであーいうふうに考えようとしたことがない。さすがに教授である。どの講義にもあまりというか全く興味をもてなかっただけに今日はうれしかった。やはり僕は文学にひかれる質をしてるのだ。旭丘出身の作家がいるといっていた。神谷先生が「札幌旭丘からでた…」といったとき、本当にビクンとした。強烈に感じた。こんな感動も久しぶりだ。図書館と古本屋を何軒か探したが、土居良一の本はなかった。ぜひよんでみたい。 今日は実行委員会があったがその内容よりも、久保の変容に驚いた。あいつどうしたのか。何か軽口をたたいたり、何かをしきりにみせないようにしたり、以前の謙虚さが失われてしまった。とまどってしまった、というか、彼の元気な感じをねたましく思った。またおいていかれた感じが走った。彼は陸上部にも入ったといった。実はああいう奴が人生をエンジョイする人間なのかもしれない。要領がいいんだもんな。俺は要領がいい奴はきらいだぜ、久保くん。 俺はこの一年はバイトに集中するんだ。この一年はその後の捨て石にするんだ。金をためる。免許をとりにいく。家を出て四畳半のアパートにひっこす。バイクを買って北海道を旅する。その後はわからない。これらを二年間のうちにやろう。その間、SEXもする。、恋人もつくる、勉強する、自分で書いてみる、たくさん本をよむ、スポーツにはげむ、体をつくる…ということもできたらいいのだが。いやきっとできる。俺は高井次郎であるし、北大生であるし、旭高健児である。小学校の校庭を歩き回り、精進川のせせらぎをきき、つき山でうたったきのうの夜、俺は変わったのだ。俺はもう僕じゃない。俺だ。男は俺という言葉が似合えば一人前なのである。