真に建設的な一冊!

 ゼネコン。と聞くと、談合体質とか官との癒着とかバブル時はウハウハとか、ついダークな印象を持ちがち。散歩中に年度末のムダな帳尻合わせ的工事に遭遇したときなど、「どうせゼネコンが儲けてんだろ、ケッ!」と思えば腑に落ちる感じ。庶民が貧乏生活のはけ口として仮想敵を仕立てる際の適役がゼネコンなのだ。たぶん。
「前田建設ファンタジー営業部」とは、そんな一方的な先入観を払拭せんと結成された、ゼネコン社員5名からなる前代未聞の部署名。「土木の前田」「ダムの前田」と異名をとる実在の企業が、アニメの世界の建造物作りを無謀にも試みた一大ドキュメントの名でもある。
 彼らが受注を狙ったのは、マジンガーZの格納庫新設工事。アニメの設定に忠実に予算と工期を見積もるわけだが、メンバーが社内外の専門家を訪ね、具体的な検討を重ねる様が実に有意義だ。つーか、ホレる。立坑掘削の工法や山留材や建設機械の選定、機械獣襲撃時の耐震性検討……と、空想の建造物が少しずつ現実に立ち現れるダイナミックな説得力! 文系の人間には魔術のように映るはず。
中でも憧れちゃうのは、格納庫の開閉屋根を検討する段。格納庫の上は水槽で、出撃時に屋根を左右に開いて水を落とし、下からマジンガーZがせり上がる仕組みだ。開閉板をアニメのとおりV字型の突き合わせにしたいと意気込む担当者。そして、水圧の関係上は逆V字型が望ましいとしながらも、現実的な解決策で応えるエキスパート。……理系のパパは男だぜ!
 空想の作品に現実の視点を導入する本は、これまでにも「ウルトラマン研究序説」や「空想科学読本」があった。おもしろいけど、一方で「それって言うだけヤボじゃん?」な面も確実にあったと思う。ファンタジーがリアルな視点を超越するのは当然なわけで……。
 でもこの本は別。空想の建造物を現実の技術で実現可能という前提がたのもしい。絶対おれらの力で可能にするんだというポジティブな志が素敵だ。「積極的にものを作り出し、よくしていこうとする様子」が溢れているのだ。つまり、文字通り「建設的」なのだ!

散歩の達人」に書いた本レビューより。